長距離弾道軌道計算
コリオリの力とは
8月18日の記事、“コリオリと軽火器の話”において長距離射撃におけるコリオリ力の影響について簡単に説明しました。 重複しますがこの“コリオリ”というのは地球が回転することによっておこる見かけの運動力を、回転座標上で移動したときの移動方向と垂直な方向に受ける慣性力の一種を数式で表現したものになります。
実際の現象で有名なのは台風の回転する向きなどで、それ以外には射程数キロをこえるような長距離狙撃などを行う場合はこのコリオリ力の影響を考慮する必要があり、よくマンガやアニメなどでその題材にされることもあるようです。
以下の数式は回転座標系における見かけの運動力も考慮した運動方程式になります。
右辺第2項と第3項にあるのがその見かけの運動力を示す部分になりますが2項と3項の間にあるバッテンは、掛け算のバッテンではなく外積(クロスプロダクト)の表示です。この外積に関しての説明はこちらのサイトを参照してみてください。
前回の記事ではコリオリの力の説明のみで、実際の弾道計算などの内容はなかったので今回は具体的にその弾道計算を代数的にやってみようと思います。
左の図のように地球に見立てた球体の北半球側の角度(緯度)をで表しその角度における地表面の点を点、図のように地球の中心点から点を通りその鉛直方向に延びる向きを軸、そして南極点に向かう方向で軸とは直角方向の向きを軸、そして東の方向(回転する方向)の軸軸軸の両方ともから直角の回転方向へ向かう軸を軸とします。
さらに地球の回転速度(自転速度)をと表します。
三角関数などを使って三方向の角速度を表せば次のようになります。
ここで外積の部分、
を具体的に計算していきます。
よって三方向それぞれの式は、
方向
方向
方向
を消してライプニッツ表記にしてまとめると次のような式が求められます。
上記の式だと2階微分の項が入っているためこのままこの連立微分方程式を解いていくのはちょっときつそうなので積分を行って階数を一つ減らしてみます。 一回積分します。
加速度成分に対して一度積分していますので出てきた積分定数は方向における弾丸の初速度と考えられるので上記のようにと表します。
次にに対しても同様に一回積分します。
に対しても同様に一回積分します。
ここでの成分ですが本来銃弾の射出においては照星を基準にして(標的までの距離を基準にして)照門の位置を上下にずらして弾丸を上方に向けて撃つものなのですが、ここではあくまで軸に水平に射出するものと仮定するのでそれを無視して、とします。
これらの連立微分方程式を解いていきますが、元の式をよく見てみるとの式の中にとのそれぞれの一階微分の項が入ってるのでこれに代入して連立方程式のように計算していったほうがよさそうなのでそのままやっていきます。
結果的に次のような連立微分方程式を解いていくことにします。
まずの式を計算していきます。
微分演算子法を使用した計算を行うために次のように置きます。
この微分方程式を解いていきます。 まず右辺の項が0とみなした解を求めます。
上の式を次のように置きます。
右の式を解いていきます。
よって解はの二つになるので積分定数をそれぞれと置けば一般解は次のようになります。
次に特殊解を求めます。
より、
微分演算子法による特殊解の解法になりますがこのままだと計算ができないので右辺の分母の作用素を部分分数分解をおこなって計算できるように変形していきます。
まず最初にの中の作用素を二つに分けて計算していきます。
同様にして、
まとめると、
特解なので解をまとめると、
時間で一階微分すると、
軽火器(アサルトライフル)による射撃を想定しているのででと考えられるので、
さらに速度の式に関しても同様に考えられるので、
これらの結果により積分定数は次のようなものと考えることができます。
代入しまとめます。
微分すると、
の解をの式に代入します。
今度はこの式を積分します。
次にの式に関して、
ここででてきた積分定数は高さと置きます。
の式を積分して出てきたは射出点を軸と軸に関しての点に考えているのでとして考えます。
この結果はあくまで簡略化した運動方程式を計算していったものなので厳密に行う場合の弾道軌道計算解とは違うですし、連立微分方程式の因果律はあっていますが最初の方程式の組み立て方にも少なからず間違いがある可能性もあると思いますので、その辺のところは大目に見てください。ちなみに明確なミスが見つかったときは謝罪いたしますが賠償は、し・な・い・ニ・ダ・<`ω´>ブヒッ (by滝クリ風)
通常の射撃と長距離狙撃の違い
普通の感覚の人だと狙撃というのは、スコープにうつる標的に照準を合わせて、そしてその目標めがけて撃つようなイメージがありますが、実際には銃の性能や風向風圧重力などによる影響、さらには射撃範囲が数キロに及ぶ場合には上に計算したような地球の自転による見かけの力、“コリオリの力”を考慮しなければなりません。 一般的な人の場合は、たとえば左のイメージのようにスコープを覗いたとき標的となり得るべくターゲットの中心線の部分(左の絵の場合はニダーの脳天)にきちんと狙いを定めて撃つものだと考えている人が大部分だと思いますが、実際には弾丸の動きを的確に考慮(予想)して照準の位置をずらして射撃するような格好になります。
つまり長距離狙撃においては弾丸を“標的に照準を合わせて撃つ”、のではなく、弾丸を“目標とする標的に持っていかせる”、といった感覚で行うものだと言ったほうがより正しい言い方になるかもしれません。
例えば狙撃ポイントが新宿の新大久保か、または大阪の生野区のような北半球の極でもなく赤道付近でもない中緯度付近(角度γ)における射撃、しかもその射撃距離が数キロにわたる場合においては、かなり大雑把な言い方にはなりますが上の左の絵(AA)ような標的に照準を合わせるのではなく、右の絵のように標的から左上あたりのポイントをねらって撃つことになります。
また、上の3式を見てもわかるようにすべての式に細かく緯度(角度γ)が与えられ、それぞれの式にはいくつもの要素が絡み合っており、そのため弾丸を射出する緯度や方向によっても様々な結果が導かれることになります。