コリオリの力とは?
フランスの科学者で軍属でもあったガスパール・ギュスターブ・コリオリ
初歩的な力学の分野において、慣性系に関する話の中にコリオリの力というものがあります。この“コリオリ”とは人の名前であり地球が回転することによっておこる見かけの運動力を、回転座標上で移動したときの移動方向と垂直な方向に受ける慣性力の一種を数式で表現したものになります。
一般的にこのコリオリという人物は科学者という記述が多いのですが実は軍人でもあったことはあまり知られていないようです。
北半球において大砲を撃ったとき、その弾道が標的よりもわずかに右にずれることを数式によって説明した人物ということで自衛隊でも多少知られた存在らしく、話の小ネタとして話題になることもありました(おそらく重迫撃砲などではコリオリの力による弾道補正が必要になるためだと思います)。
余談ですが攻殻機動隊というアニメにおいて少佐と呼ばれる登場人物(草薙素子)が、「相手がコリオリの法則を熟知した手練れ〜」というセリフを吐くワンシーンがあり、飛距離数百メートルの軽火器においてはコリオリの力を考慮する必要はほとんどないのですが、2キロをこえるような長距離狙撃である場合なら確かにコリオリの力を考慮して狙撃ポイントを修正する必要があるかもしれません。
しかしながら実際に訓練や演習などで小銃射撃を行った経験から言わせてもらうと、そのような長距離からの狙撃を行う場合はまず銃の性能、さらには風圧・風向といった気象条件などに大きく左右され、さらには弾丸はまっすぐに飛んでいくイメージがありますが実際にはちゃんとニュートンの万有引力は働いており、飛行時間が長ければ長いほどその落下を考慮しなければなりません(かなり平らな放物線を描いているような感じになり、その様子は曳光弾(えいこうだん)を使うとよくわかります)。
つまり1キロを超えるような長距離狙撃においてはそれらのすべてのパラメーターを厳密に考慮した上で、さらにコリオリの弾道計算までいれる(射出点の緯度や方向によっても違いが出てくる)といういわば神業的な技術が必要になります。全く不可能とは言いませんが不確定な要素が多いため現実的には不可能に近く、こういった狙撃を成功させるにはコリオリの力の考慮云々以前の話となることでしょう。
ちなみにゴルゴ13という劇画において、スナイパーである主人公がスコープで照準をとるときターゲットが必ず中心に位置していますが基本的にあれは間違いです。あのような長距離狙撃においては先ほども指摘した重力や風向風圧による弾丸軌道のずれを考慮しなければならないためその分を計算して狙いを定め直さなければなりません。実は原作者のほうもそういったことは重々承知しているらしく、しかしながら一般人向けにあえてそのようにして描かれているのだそうです。
回転座標で運動する物体
円運動の角度を、周囲に沿った距離を、ボールの速度を、慣性力をとおくと、は動径方向に垂直な方向に働く慣性力とし、一定加速度での移動距離はの形で表せるので
この力を実際に数式を使って具体的に表現してみましょう。
■回転座標系■
3次元の回転
2次元の回転
回転座標系において時間変化した角度をとすれば以下のように表せます。
上記式を再度微分します。
さらに系(慣性系)では次の運動方程式
が成り立つので上の式の結果を用いてを表せば、
これらを代入し系について整理すれば
となります。
力との間の関係は次式で表されます。
は回転系から見た加速度運動で運動の原因となる力としてのほかに2つの力が加わった形であり、右辺第2、第3項は見かけの力(慣性力)を示しています。
右辺のそれぞれの意味は
を示しています。
右辺のそれぞれの意味は
右辺第2項 |
:(コリオリの成分) |
---|---|
右辺第3項 |
:(遠心力の成分) |
回転座標系をまとめてみると次のようになります。
慣性系に対して運動する座標系
1. |
等速度運動する座標系は慣性系となる(ガリレイ変換)。 |
---|---|
2. |
加速度運動する座標系は非慣性系(見かけの力=慣性力)を考える。
:加速度で運動している系 見かけの力 |
3. |
回転運動をする座標系は2種類の見かけの力を考える。
遠心力 : コリオリの力: |
コリオリの力と銃の右転式
多くの軍隊で使われる軽火器類はその銃身の内側に腔線(コウセン)と呼ばれる溝があり、それらはほとんどが右転式になっています。これはコリオリの力を考慮しているなどと説明している人がまれにいますが、単に右利きの射手が多いためであってコリオリの力とは無関係だと思われます。基本的に弾頭や弾丸に回転を与えるという本当の目的は別に存在し、弾道軌道を安定させるためのいわばジャイロのような役目を果たすためにそうした回転を与えているというのがその理由のようです。
実際に陸上自衛隊における対戦火器でカールグスタフ(ハチヨンと呼ばれる無反動砲)と呼ばれるそれなどもそのカーブは緩いですが右転になっており(宇宙戦艦ヤマトの波動砲のギザギザのようなものが砲身の内側にありそれが緩いカーブを描いています)、それ以前に使用されていた旧式のロケットランチャー(ロケラン)とは比較にならないほど命中率が高くなったんだそうです(※命中率が上がった理由はそれ以外にもあり、たとえば名前の示す無反動のとおり後方爆風を出すことによって支点にかかるベクターを0にするなどして命中率を高めている)。
北半球と南半球とで熱帯性低気圧の回転方向が違うわけ
また台風などの熱帯性低気圧は南と北でその回転方向が違いますが、これらは上記で説明したコリオリの力が働いているためだというのは大体のところ想像がつくと思います。
回転する円盤を用意し、その円盤の中心に鉄球などをおいて回転させるところを実演しながら、北半球の熱帯性低気圧は反時計まわりになり、そして南半球では時計回りになるといったことなどを子供相手に説明してあげるのもたまにはいいかもしれません。
回転する円盤を用意し、その円盤の中心に鉄球などをおいて回転させるところを実演しながら、北半球の熱帯性低気圧は反時計まわりになり、そして南半球では時計回りになるといったことなどを子供相手に説明してあげるのもたまにはいいかもしれません。
コリオリと軽火器の話関連ページ
- 平行軸定理と慣性モーメント
- 平行軸の定理と慣性モーメントの話。慣性モーメントとは物体(剛体)の回転のしづらさ、回りだす変化のしにくさを示す物体の物理的な特性のことだと考えることができるでしょう。またさらに別の言い方をすれば回転の方程式といえるかもしれません。このエントリーでは円錐の慣性モーメントを例にして説明していきます。
- 円錐の慣性モーメントの導出
- 円錐に関する慣性モーメントの計算と考察。 任意高さにおける円錐中の円盤とみなした部分を相似関係によって求め目的とする円錐の慣性モーメントを求めていきます。
- 可逆・不可逆のエントロピー
- 当サイトは主に物理に関する数学など、その他周辺も含めた少々ごった煮のウェブサイトです。 数学分野に関しての趣旨としては、通常のテキストでは割愛されてしまう内容などを詳しく記述し、さらには難しい説明をするのではなく、わかりにくい内容をいかにわかりやすく伝えるか━など、そういったウェブコンテンツならではの利便性と機動性を生かしたサイト作成を主眼としています。
- コンプトン散乱A
- 外郭軌道電子との衝突によりエネルギーの減少した散乱光子をコンプトン散乱光子と呼び、さらにはこのような散乱をコンプトン散乱効果などと言ったりします。
- コンプトン散乱@
- コンプトン散乱とは、光子がターゲットとなる原子の外殻軌道電子と衝突して衝突前後においてエネルギーの変化を起こさせ、光子が持っている運動エネルギーを軌道電子に与えて外殻の軌道電子を原子の外に飛び出させる現象を主に言います。
- 光電効果とコンプトン効果
- 当サイトは主に物理に関する数学など、その他周辺も含めた少々ごった煮のウェブサイトです。 趣旨としては通常のテキストでは割愛されてしまう内容などを詳しく記述し、さらには難しい説明をするのではなく、わかりにくい内容をいかにわかりやすく伝えるか━など、そういったウェブコンテンツならではの利便性と機動性を生かしたサイト作成を主眼としています。またトップレベルドメイン直下はブログ型コンテンツになっておりブログ形式のコンテンツは数学以外のテーマを主に扱います。
- エントロピー増大測
- 当サイトは主に物理に関する数学など、その他周辺も含めた少々ごった煮のウェブサイトです。 数学分野に関しての趣旨としては、通常のテキストでは割愛されてしまう内容などを詳しく記述し、さらには難しい説明をするのではなく、わかりにくい内容をいかにわかりやすく伝えるか━など、そういったウェブコンテンツならではの利便性と機動性を生かしたサイト作成を主眼としています。
- エントロピー
- 当サイトは主に物理に関する数学など、その他周辺も含めた少々ごった煮のウェブサイトです。 数学分野に関しての趣旨としては、通常のテキストでは割愛されてしまう内容などを詳しく記述し、さらには難しい説明をするのではなく、わかりにくい内容をいかにわかりやすく伝えるか━など、そういったウェブコンテンツならではの利便性と機動性を生かしたサイト作成を主眼としています。
- クエーサーとブラックホール
- 当サイトは主に物理に関する数学など、その他周辺も含めた少々ごった煮のウェブサイトです。 数学分野に関しての趣旨としては、通常のテキストでは割愛されてしまう内容などを詳しく記述し、さらには難しい説明をするのではなく、わかりにくい内容をいかにわかりやすく伝えるか━など、そういったウェブコンテンツならではの利便性と機動性を生かしたサイト作成を主眼としています。
- コリオリ弾軌道計算-補遺
- 当サイトは主に物理に関する数学など、その他周辺も含めた少々ごった煮のウェブサイトです。 数学分野に関しての趣旨としては、通常のテキストでは割愛されてしまう内容などを詳しく記述し、さらには難しい説明をするのではなく、わかりにくい内容をいかにわかりやすく伝えるか━など、そういったウェブコンテンツならではの利便性と機動性を生かしたサイト作成を主眼としています。
- 長距離射程におけるコリオリ弾軌道計算
- 初歩的な力学の分野において、慣性系に関する話の中にコリオリの力というものがあります。この“コリオリ”とは人の名前であり地球が回転することによっておこる見かけの運動力を、回転座標上で移動したときの移動方向と垂直な方向に受ける慣性力の一種を数式で表現したものになります。 このページでは実際にアサルトライフルなどの軽火器射撃訓練を行った経験がある当Webサイト管理人が、射撃検定1級取得者の立場という観点からも含めてコリオリ力を考慮した長距離射撃などについて考察します。
- くり抜き円盤の慣性モーメント
- 物体(剛体)の回転に関する物理的特性を示す用語で“慣性モーメント”というのがありますが、それに関連する内容でで“平行軸の定理”というのがあります。 これは物体の軸に関しての慣性モーメントがわかっているとき、これに平行な位置における軸に関しての慣性モーメントを求めるとき使われる計算法になります。